魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
任せとけ
翌日、午前十一時五十分。
日本エア航空新千歳発羽田行き110便は、オンタイムで新千歳空港を離陸した。
グングン高度が上がり、窓側の私の席からは、遥か眼下へと遠退く滑走路が望める。
やがて薄い雲を突き抜け、視界が真っ青な空に占められてから、ポンと音がしてベルトサインが消えた。


周りの乗客たちが、ガチャガチャと音を立ててシートベルトを外し始める。
早速席を立つ人もいる。
私の隣の席では、神凪さんが軽くシートを倒していた。
彼は東京に帰るために便乗中。
そして私も、彼と一緒に乗っている。
『わざわざ別便で帰る理由がないだろ』と、彼が強引に私の分のチケットを取ったからだ。


このシップはA320という一通路の小さめの機種で、エコノミー席は三列並びのシート配置になっている。
午前中の最後、ビジネス目的での利用客が落ち着く時間帯だからか、空席も目立つ。
この並びも、私と神凪さんの二人だけだ。
窓側と通路側に離れてゆったり使えばいいのに、神凪さんはわざわざ真ん中に座った。


彼の言動のすべてが謎で、私は端整な横顔をそっと盗み見た。
神凪さんはシートベルトを外そうとして、手元に視線を落としている。
< 118 / 222 >

この作品をシェア

pagetop