魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
Cleared for Takeoff
夜勤明けで帰宅して、午後に数時間仮眠を取った。
夕食をとった後はDVDを観たり本を読んだりして過ごし、夜も更けてからふと時計を見ると、針は午前零時を指していた。


日本とフランスの時差は八時間。
パリは午後六時を過ぎた頃だ。
羽田からパリまでの飛行時間は、約十二時間半。
神凪さんが乗った飛行機も、もうとっくにシャルル・ド・ゴール空港に到着したはず。


空から地上に帰ってきた彼を意識した途端、私はどうしてだかソワソワし始めた。
読んでいた本のページを開いたまま、床に伏せた。
スマホを片手に立ち上がり、バルコニーに出る。
頭上には、濃い闇に包まれた空が広がっている。
私は、トクントクンと淡い音を立てて速まる鼓動を気にして、胸元の服を握りしめた。


『任せとけ』――。
今朝、神凪さんが最後に口にした言葉が、ずっと胸に残っている。


私たち整備士が丹念に整備した飛行機を安全に飛ばす、それがパイロットの役割。
パイロットなら当たり前、当然の一言に、私の胸は静かに高鳴り、微熱に冒された時みたいに身体がフワフワする。


「はーっ……」


落ち着かない自分を鎮めようとして、私は柵に両腕をのせて頬を預けた。
晩秋に差しかかり、冷たい夜気に冷やされたコンクリートの柵が、火照った頬に心地よい。
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