魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「土産、買ってくるから」

「え……」

「帰ってきたら、会ってくれる?」


意図せずドキンと跳ね上がる心臓を気にして、私は無意識に両手を胸に当てた。


「この続き。ちゃんと時間がある時に言いたい」


神凪さんは言いたいことだけ言って、私の返事も聞かずに、マネージメントセンタービルに向かって歩き出した。


「あっ」


私はとっさに彼の背を追おうとして、踏み止まった。
腕時計の針は、六時四十五分を指している。
彼のショーアップまで、あと十五分しかない。
だけどどうしても、このままで別れたくなくて……。


「今日の神凪さんのシップ……JA831K。私たちのチームが整備担当したんです!」


数メートル先で神凪さんが立ち止まり、肩越しに振り返ってくれた。


「だから……元気に飛ばしてあげてください」


勢いで口走ったものの、急に恥ずかしくなって、私は目を泳がせた。
神凪さんは軽く俯いてから、ふっと口角を上げる。


「任せとけ」


大きく手を挙げてヒラヒラと振りながら、まっすぐ前へと進んでいく。
私は暑くもないのに火照る頬に両手を当て、彼の背中が見えなくなるまで、その場に佇んで見送った。
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