魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
なんて声をかけるか、どう謝るかなんてことをグルグル考えながら、ビルの正面玄関に辿り着いた。
周りにクルーや社員の姿はない。
神凪さんを見つけたら、人の邪魔にならずに呼び止められる場所を探して、私は辺りを見回した。
すると。


「もー、うるさいな。放っておいてよ」


女性のちょっと苛立った声がして、ギクッと肩を縮めた。


「私と充のことだし、愁生には関係ない」

「その佐伯のせいで、ウジウジメソメソしてるんだろ」


私が知る男性二人の名前が会話に出てきて、私は声がした方向に顔を向けた。
空港ターミナルの方から、喧嘩腰で言い合いながら近付いてくるのは、黒い制服が凛々しい副操縦士と、首に巻いた薄いピンクのスカーフがシックなCA……神凪さんと、佐伯さんの彼女の今野瞳さんだった。


私は反射的に身を翻し、柱の影に隠れた。
って、なんで隠れるの……。
自分の行動が謎でツッコミながら、恐る恐る顔だけ覗かせる。


「失礼ね。ウジウジもメソメソもしてないったら」


私の視線の先で、今野さんがヒールを鳴らして足を止め、神凪さんを見上げた。
彼女は背も高く、五センチくらいのヒールを履いているから、顎先をちょっと上げただけだ。
神凪さんもつられたように立ち止まり、彼女と対峙する。
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