魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
ギザギザのエンジンが特徴的。
そして、先に行くにつれて鋭くなる、美しい曲線を描く両翼。
私が担当する787だ。


マーシャラーが両手を空高く突き上げ、大きな大きな飛行機が定位置でピタリと停止した。
グラウンドで到着を待っていた整備士が、タイヤにチョーク留めを施す。
ボーディングブリッジが接続され、乗客が降機を始めたのを見て、私はアイスコーヒーのグラスを片付けた。


コックピットに認めた二つの人影。
遠くて顔はわからないけど、右側の副操縦士席にいるのは神凪さんに違いない。
私は荷物を纏めて、ラウンジを出た。
そのまま迷うことなく、マネージメントセンターに向かった。


これからデブリーフィングだろうから、その後でいい。
神凪さんを捕まえて謝りたい。
断じて言うけど、昼間佐伯さんは、なにも間違ったことは言っていない。
むしろ、あんな意地悪な捨て台詞で、彼を困らせた神凪さんを咎めてもいいくらいだ。


だけど、私は神凪さんの機嫌を損ねた。
いや、佐伯さんが言っていたように、私に対しては今までと違うというのが本当だったら、傷つけたと言う方が正解かもしれない。
それなら、黙ってやり過ごすわけにはいかない。
私は彼に謝ろうとして、切迫観念に駆られている。
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