魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
Cleared to Land
羽田から飛び立った空はまだ夕焼けにも染まっていなかったが、一時間とちょっとして函館上空に到達すると、すっかり夕闇に包まれていた。
新千歳便の場合、羽田から日本列島をほぼまっすぐに北上する。
途中、右側に蔵王連峰、左側に鳥海山や十和田湖を望み、やや高度を落とし始める頃に、津軽半島の海岸線を目視できるルート。
着陸が近い今、遥か眼下の函館の街は、無数の明かりで彩られている。


ナイトフライトだったら、断然新千歳便が好きだ。
有名な函館の夜景を、函館山なんかよりもっと上、空から堪能できる。
副操縦士になって知った、ちょっとした贅沢だ。


『JK74, Runway B, Cleared to Land』


ザザッというノイズに交じり、千歳アプローチから航空無線でB滑走路への着陸を許可された。
俺はMICボタンを押して応答した。


「JK74, Runway B, Cleared to Land」


同じことを復唱するのは、聞き間違いによる誤認を防ぐためだ。
たとえ一ワードでも、空と地上、双方の認識相違は、取り返しのつかない大事故を引き起こしかねない。
新千歳空港に進路を定め、機体は高度を落としながら最終着陸態勢に入った。
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