病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

18、ギストヴァルト

 ヒルダに拠れば、母のお墓はギストヴァルトの教会――旧神殿跡にあるという。
 
「……つまり、ユードの育った孤児院もあるところ?」
「そうなりますね」

 ユードが頷けば、ヒルダが言った。

「あの頃の司祭様はもうとっくに亡くなられていますが、お母さまのことを憶えている者もいるでしょう」
「是非、話を聞きたいわ。……お母さまは、わたしに似ているのかしら」
「髪も瞳の色もそっくりですよ。本当に美しい方でした」
  
 ヒルダがうっとりと遠い目をして言うので、わたしはすぐにもギストヴァルトに行きたくなる。

「ギストヴァルトは、我がブロムベルク辺境伯家が管理しているのよね? では行くのは問題ない?」

 わたしの問いに、ユードが首を傾げる。

「街道沿いに行って、教会まで二日かかります。まずは冒険者ギルドのあるグステンの宿場町で一泊する必要がありますね」   
「冒険者ギルド!」

 気を利かせたヨルクが地図を持ってきてテーブルに広げる。今いるのは辺境伯のリーデンの城。街道はかつての国境、ブロムベルクとギストヴァルトを区切るウォーレルの関所を通り、ほぼ一日の行程でグステンの宿場町に出る。グステンで道が二つに分かれ、一方はギストヴァルトの神殿や聖跡をめぐる巡礼ルートに入り、やはり一日の行程でギストヴァルト精霊神殿跡(現在の教会)に至る。

「グステンの宿場からもう一方のルートを取ると、ダンジョンが点在する遺跡群に向かうのね」
  
 わたしが地図を指で辿りながら言えば、ユードが頷き、大きな手の人差し指で二つに分かれた道の間を指し示す。

「本当はここに、本来の街道が走っていた。――王国が滅びるまでは」

 地図ではその場所は黒い森が蔽い、道は描かれていない。

「……今は、ないの?」
「街道はない。この先は王城があった」
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