病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

19、屋台料理

「えー、グステンの宿場ではまず、辺境伯家の出張所に顔を出さないといけません。それから冒険者ギルドを視察し、ギルド長に挨拶して夜は会食、そのあと、巡礼ルートを通って教会に入り、司祭様に挨拶して辺境伯家からの寄付金をわたし、孤児院を視察……」

 朝食の席で、ヨルクに「ギストヴァルトでしなければならないことリスト」を読み上げられて、わたしは仰天した。

「ちょっと待って! わたしはお母さまのお墓参りがしたいだけなの! 冒険者ギルドに興味ないわけじゃないけど、ギルド長と会食とかはちょっと……!」

 ヨルクが片方の眉を上げ、首を傾げる。

「でも、次期辺境伯夫妻が初めてギストヴァルトに入るんだぜ。各方面に仁義は切らないと」    
「そんなおおげさな旅行がしたいわけじゃないのよ!  なんとかならないの」
 
 ヨルクが同席していたユードの顔を見れば、ユードも控えめに言う。

「俺も、あまり大々的には……俺のことを憶えている者もいるかもしれないし、いろいろ面倒くさい」
「……こっそり行くことはできないの?」
「こっそり? ……つまり、おしのびってこと?」

 ヨルクが眉を顰めるが、わたしは「おしのび」と言う言葉にロマンをかきたてられた。

「それよそれ! 辺境伯の娘だってバレなければいいのよね! 冒険者か巡礼者のフリをすれば……なんて素敵! とってもワクワクしてきた!」
「お嬢、何勝手なこと言ってんの!」 

 護衛の立場的としては絶対に許可できない、とヨルクが言うけれど、ユードもしばらく考えて言った。
  
「ギストヴァルトは、街道の治安は悪くない。森を抜ける時に魔獣に注意すれば、安全の方は大丈夫じゃないか?」
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