病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

25、誓い

 ユードの語ることすべてが衝撃だった。
 信じろと言う方が無理だ。――この世界が、何度も時戻りを繰り返しているだなんて。

 でも、少なくとも直前の前世一回分を憶えているわたしならば、まだしも理解できるはずだと、ユードは言った。
 ギストヴァルトでは、精霊の乙女と呼ばれる女性たちがいて、彼女たちは母方の血筋から予知能力を受け継ぎ、代々、神殿の巫女として仕えてきた。彼女たちの予知能力とは、直前の時戻りの記憶なのだ。わたしの母は神殿の巫女頭だった。わたしにも当然、同じ力が受け継がれている。

 湖を見下ろす大理石の東屋(ガゼボ)。森に喰われそうな廃墟の城の背後には、初夏の青空が広がる。森の奥から聞こえる鳥の鳴き声。青い空を横切るトンビ。ユードが立ち上がり、そしてわたしの目の前で跪いた。湖と同じ色のユードの瞳がわたしを真剣に見つめる。
 
「セシリア、愛しています。何度も繰り返してきたこの世界で、俺が愛したのは貴女一人だけです。俺は貴女との未来を生きるために、必ず聖杯を取り戻す。だから――愚かな俺の過ちを許して欲しいとは言わない。でも、今度は絶対に守る。貴女に指一本触れさせないと誓う。だから――」

 ユードがまるで宝物のようにわたしの手を両手で捧げ持ち、手の甲にそっと口づける。

「俺を貴女だけの騎士とし、夫ととして受け入れてください。セシリア」
「……ユード……」

 真摯な誓いに、わたしもまた、この人を確かに愛していたのだと思い出す。
 だからこそ、裏切られたと知った時の苦しみは――
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