病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

29、狩猟

 ディートリンデ様に絡まれて、わたしはさらに警戒を強めた。外出も控え、社交も最低限にとどめる。
 でも、皇帝陛下が主催する狩猟は欠礼するわけにいかない。――辺境を治める武門の家柄である我がブロムベルク辺境伯家は、例年、直属の騎士団を率いて皇帝陛下の御前に馳せ、親衛軍とともに狩りの技を競うことになっている。次期辺境伯となったユードにとっては、絶対に欠かせない行事だ。当然、妻のわたしも男性が狩りをする間、皇太后陛下以下の、女性たちに交じって社交に勤しまねばならない。
 
 非常に憂鬱だ。皇太后陛下のお相手も緊張するし、ディートリンデ様と顔を合わせるのもうんざりする。

 前回はどうだったか――記憶をたどるが、あまりはかばかしい思い出はない。
 前回は、今回ほど皇太后陛下の覚えがめでたくなかったし、社交界にはユードとディートリンデ様の噂が蔓延して、寝取られた可哀想な妻という扱いだったような気がする。社交に出るたびに嫌な気持ちになるのに、おそらくはユードの魅了に誤魔化されて、あまり深刻に考えていなかったのだろう。

 決定的な破局は、この狩りのすぐ後に訪れたはずだ。
< 167 / 184 >

この作品をシェア

pagetop