病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

31、時の環の向こう

 ユードはわたしを抱きしめて、帝都の辺境伯邸に移動した。
 わたしたちの姿を見た騎士団の一人が父の部屋へと駆け込み、それからほどなくして廊下をバタバタとヨルクが駆けてきた。

「お嬢! 生きてた! どこにいたの!」
「ヨルク! 心配かけたわ!」

 狩りの時、皇太后陛下の天幕の側には従者は近寄れない。わたしが皇太后陛下にご挨拶する間、ヨルクは近くで待機するしかなかった。その間に攫われてしまったのだから、護衛騎士としての彼の心労たるや……

「一人になるな、ってユードにも言われてたのに!」
「ごめんなさい。ちょっと喉が渇いて……お茶を一杯、いただくだけのつもりだったのに、レイチェル様に呼び止められてしまって……」
 
 まさかディートリンデ様がレイチェル様を使ってくるなんて、想像もしていなかった。迂闊だったと言われれば反論はできない。
 
「アニーもめちゃくちゃ心配してる! すぐに顔を見せてやって! それから食事と着替えと……! お館様には俺からも無事を知らせておくから!」
「ええ、そうするわ」

 ヨルクに言われて自室に戻った途端、アニーに抱きしめられてワンワン泣かれてしまい、宥めるのに苦労したのだった。
< 177 / 184 >

この作品をシェア

pagetop