病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

4、聖杯

「セシリア……?」
 
 隣のユードがふらついたわたしを支え、陛下とラウレンツ卿も、わたしがさきほどの結婚式で倒れたのを思い出したらしい。

「そう言えば、式では具合がよくなさそうでしたね。妖精姫は噂通り、身体が丈夫ではないらしい」
 
 父はわたしの身体が弱いと嘘を言って、わたしを社交界に出さなかった。そうなると余計に神秘めいてくるのか、いつの間にやら「ブロムベルクの妖精姫」なんて噂が独り歩きし、本物とのギャップに失望されそうで、ますます人前に出られなくなった。――前世でも、わたしの社交デビューは結婚式の後だった。

 と、ユードに支えられたわたしの目の前に、魔導師のラウレンツ卿が進み出て、額に手を当てる。白い光が指先から発して、すうっと身体が軽くなり、思わず顔を上げた。

「ふむ、さすが妖精姫。……なかなか魔力が強い……」
 
 それから、ラウレンツ卿はユードをじっと見た。

「ユード卿……ただの平民とは思えぬほどの魔力量ですが……」

 わたしがユードを見上げれば、ユードが苦笑した。

「父は騎士でありましたが、早くに孤児となりましたので、継ぐべき家も爵位も残っておりません。貴族の血は引いております故、魔力はそのせいかと……」
「なるほど」

 ラウレンツ卿が納得して頷き、もとの席に戻る。

「花嫁はただの疲労のようですね。……体力回復の魔術をかけておいたので、しばらくは()ちましょう」
「恐れ入ります」
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