病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

6、初夜を拒否

 結婚披露宴も終わり、遠方からの泊まりの客も客室へと引き上げた。わたしは今夜から過ごすことになる、次期当主夫人の部屋に下がり、初夜に備えて入浴し、身支度を整える。

 陶器できた猫脚のバスタブにはお湯がたたえられ、香りのよい花びらが浮いている。
 お湯は魔導ボイラーで沸かせるけれど、バスタブへ移し替えるのは人力だから、入浴のお世話はけっこうな重労働である。
 わたしの専属メイドはアニー一人だけで、あとは必要に応じて呼び寄せている。今夜、入浴を手伝ってくれるのはまだ若いメイドのモリーだけど……

 ザバン、とお湯が跳ね、顔にお湯がかかる。お湯もぬるいし、背中の洗い方が乱暴でヒリヒリする……
 アニーは、今夜はいろいろと準備で忙しいから仕方ないのだけど――

 バシャン! と再びお湯をかけられ、わたしは思わず顔を顰める。

「もう少し丁寧にお願い」
「え? ああ、申し訳ございません、手が滑りました」
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