病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士

14、三十六計逃げるに如かず

「お嬢、お館様は今日、エメロード伯爵家に招待されていて、夜遅くまで帰らないってさ」

 お父さまに面会の約束を取り付けに行ったヨルクが、戻ってきて言った。

「そう……いえね、ヨルクが出かけてから思いついたのだけど……いっそ、正面からぶつかってみたらどうかと思って」
「正面から?」

 ヨルクが不審そうに眉を寄せる。

「いったい、誰に正面からぶつかるつもりなんです? お嬢なんてあっさり吹っ飛ばされて終わりっすよ、どうせ」
「でも、ディートリンデ様が本気でユードを好きなのは確かなのよ。わたしは、ユードの気持ちがあちらにあるなら、別れたいと思ってるの。手土産を持って行ってきちんと話し合ったら、意外と上手くまとまるかも……」

 しかし、わたしの提案を聞いたヨルクもアニーも、呆れた表情になった。
  
「お嬢、ディートリンデ嬢に菓子折り持って真相を聞きに行くって、バカなの? 死ぬの?」
「バカかもしれないけど、死にはしないわ!……手土産は菓子折りじゃなくて高級ワインのつもりだったけど、魔石の方がいいかしら?」 
「違います、手土産の問題じゃなくて。……お嬢様、これに関しては、あたしもヨルクと同意見です。会いに行くなんて、下手すると本当に殺されちゃいますよ」
「そんなことは……」

 たしかに前世では、ディートリンデ様にひどい目に遭わされて死んだのだ。でも、あれはわたしがユードに抱かれていたからで、今のところ、わたしはユードを拒んでいる。手土産を持参して誠意を見せ、話し合えば、ディートリンデ様もわたしを殺すのはやめ、離婚に向けて協力しあえるかもと思ったのだけど……
 
「却下に決まってる! あの人のユードへの執着、ちょっと狂気じみてる。俺がお館様にあの手紙を見せるべきだと思うのは、お嬢の身辺警護を増やすのを進言するためだ」
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