白鳥に魅入られる
時は大正時代。西洋の服装や洋食、教育や様々な娯楽が発展し、都心は華やかな変化を遂げた。そんな街にある屋敷でましろは暮らしている。

ましろの家は華族と呼ばれるお金持ちだ。大きく広い屋敷には何人もの使用人がおり、ましろの母は家事の一つもせずに一日を優雅にソファでくつろぎながら終える。ましろは二つ年上の姉と共に女学院に通わせてもらっており、農村の女の子ならば誰もが羨ましがるだろう。しかし、ましろの顔に笑顔はない。何故ならーーー。

ましろが目を覚ますと、いつもと変わらない物がほとんど置かれていない部屋だ。お嬢様らしい調度品や天蓋付きのベッドなどはなく、ましろは使用人が使うものとほとんど変わらない安いベッドで眠り、最低限のものしか置かれていない部屋で過ごしている。

「……ハァ」

目を覚ましたばかりだというのに、ましろの口からため息が漏れる。朝なんて来なくていい。いっそ世界など滅びてしまえ。それが毎日ましろが思っていることだ。
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