先生と私の三ヶ月
 スマホが鳴っているのに、先生は私を見つめたままでいる。

「あの、先生、電話が」
 私の声に先生の瞳が揺れた。

「先生、電話」
 先生が目を閉じ、何かを決断するように短く息を吐いた。
 それからスマホに出ると、先生はいつもの調子で話し出した。
 穏やかな低めの声はすぐそばで聞いていて心地いい。

 電話は黒田さんからみたい。
 次回の打ち合わせの話だ。

 お仕事の邪魔になってはいけないと思い、膝から降りようとすると、引きとめるようにスマホを持っていない方の手で腰を掴まれた。

 視線を向けると、先生は電話をしながら私を見つめている。
 その瞳がさっきよりも熱くて怖い。

 電話が終わった後に先生にキスされる所を想像して鼓動が速くなった。

「ああ。わかた。じゃあ、取りに行かせる」
 先生の電話が終わった。机の上にスマホを置いた先生は、再びこっちを見た。

「あの、先生」
「俺が怖いか?」
「えっ」
「ずっと俺から逃げたそうな顔してた」
 大きな手が私の頬を撫でる。

「だって、なんか、さっき変な感じだったから」
「変な感じ?」
「それは、あの」
 言えない。先生にキスされるかもと思ったなんて。

「お前を困らせるつもりはないんだ。ただ」
 言葉を区切って先生が私を見つめた。

「お前が猫みたいに抱き心地がよくて」
「猫?」
 眉をあげて驚くと、先生がクスっと笑った。

「そうだ。お前は猫だ」
 猫と言われて喜んでいいのだろうか。

「そろそろ解放してくれませんかね。こっちは落ち着きません」
「ああ、わかった。猫は束縛できないからな」
 腰に回っていた先生の腕が離れると、すぐに先生から離れた。

「それで先生、私は集学館におつかいに行くのですか?」
「察しがいいな。頼む。黒田から資料を受け取って来てくれ」
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