先生と私の三ヶ月
※※※

 夢を見た。

 夢の中の私は先生と何度もキスをしていて、先生は切なそうに私を今日子って呼んでいた。

 そばにいて欲しいと言われて、大きく心が揺れた。

 目が覚めると現実で、私はベッドに一人で寝ていた。
 それが寂しくて、でも、夢で良かったとも思った。どんなに先生が好きでも、純ちゃんに言えないような事はしたくない。

 いつものようにキッチンで朝食の用意をしていると、怖い顔をした先生が現れた。
 昨日と同じ少しくたびれた白いTシャツを着ている。きっと徹夜をしたんだ。先生はこれから寝るんだろう。

「おはようございます」
 いつものように挨拶をすると、後ろから抱きしめられた。
 びっくりして、持っていた金属のボウルが床に落ちた。

「せ、先生……」
「朝までお前の事を考えていた」
 耳に直接、ハスキーな低い声がかかる。

「今日子」
 熱い声でガリ子ではなく本名で呼ばれて、胸が高鳴った。
 私はまだ夢を見ているの?

「昨夜の事は覚えているか?」
「昨夜の事?」
 おぼろげにお酒を飲んで帰って来たあと、先生を叩いた事を思い出した。
 上原さんの話に腹が立って仕方がなかったから。

「すみません。酔って先生を叩きました」
 耳元でクスッと笑う声がした。

「俺は今日子以外のアシスタントに手は出していない」
 先生、また今日子って……。ドキドキして胸が熱い。

「他の子にも何もしていないし、名前も顔も覚えていない。上原の事も正直、記憶にない。お前は俺が上原にキスをしたと言ったが、それは上原がついた嘘だ。疑うなら黒田に聞け。アシスタントの事は全部、黒田が知っている。もし黒田が信用できないなら、真奈美にも聞け。あいつは何でも知ってるし、嘘はつかない」

 上原さんが言った事は嘘だったの?
 先生はキスしていないの?
 
「先生……」
「言いたい事はそれだけだ」
 床に落ちたボウルを拾うと、先生は私の手に持たせてくれた。それから、とても優しい目で見つめられる。物凄く大切な物を見るような、そんな瞳だ。

 なんか、今朝の先生、いつもと違う。
< 210 / 304 >

この作品をシェア

pagetop