先生と私の三ヶ月
 望月かおるの新作「今日子」が発売されたのは半年後だった。先生は小説家が死ぬという結末を変え、「今日子」と幸せになったというハッピーエンドにしてくれた。
 そのハッピーエンドというのも、これ以上ないほどの盛りに盛ったものとなり、望月かおる作品の中で一番幸せな結末となった。

 先生がここまでのハッピーエンドを書くのは珍しく、ファンの間では五年ぶりの新刊は大絶賛となり、ベストセラーになった。

 そして一年後には「今日子」は映画化が決まり、「今日子」役を演じる人気女優の名前を聞いて、申し訳ないような、恥ずかしいような気持ちになった。

「先生、どうしよう。私、この小説のヒロインのモデルです、なんて口が裂けても言えない。あんな綺麗な人が『今日子』を演じるなんて」
 ベッドの中でバタバタと足を動かすと先生が笑った。

「俺はぴったりな配役だと思ったがな」
「えー、どこが」
「今日子は本当に自分の美しさに自覚がないから困る」
「……ありませんよ」
「ベッドで乱れる今日子を見て、どんなに俺が胸をときめかせているか知っているか?」
 ぶちゅっとキスをされた。
「先生、ダメ。今夜は真奈美さんと流星くんが泊まっているから」
「聞こえないよ」
「黒田さんも泊まってるし」
「気にするな。真奈美と黒田だって同じような事をしている」
 キスが深くなり、先生の手がパジャマの中に入って来る。
「あんっ、先生……、かおるさん、だめ。明日は、真奈美さんと黒田さんの結婚式だからっ。……ダメ!」

 理性を振り絞って何とか先生から離れた。
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