先生と私の三ヶ月
「先生、私が出て行ったら、小説の中の小説家と同じ事をするの？」
　先生が短く息をつき、「するかもしれないな」と呟いた。

「ダメ。そんなの絶対にダメ。真奈美さんや流星君がいるんですよ」
「そうだな。真奈美や流星がいるな。だが、今日子がいないとダメなんだ。自分で命を絶つ事はしないが、今日子がいないと心が死んでしまうんだ。俺の心はひなこと文人の死で一度死んでいる。だから小説が書けなくなった。死んだ俺の心に命を吹き込んでくれたのは今日子なんだよ。今日子がいないと俺は生きる気力がなくなる」

「先生……」
　こんなに私を必要としてくれる人がこの世にいるなんて。
　嬉し過ぎて涙が止まらない。

「私こそ、先生に生きる力を沢山頂きました。純ちゃんと離婚出来たのも、先生が私に勇気をくれたからです。先生がいなかったら私は今でも自分の心を偽って純ちゃんと暮らしていたかもしれない」

　先生に出会っていなかったら、私は純ちゃんに裏切れられていると知りながら、きっとまだ純ちゃんにしがみついていた。

「今日子、俺たちは互いに力を与え合う関係だったんだな」
「はい」
「だったら、この先も一緒にいよう。二人で元気になるぞ」
　先生の大きな手が私の頬を撫でる。私はその手に自分の手を重ねて「はい」と頷いた。

　頷いた瞬間、強く先生が抱きしめてくれた。
　私も先生を抱きしめた。

　もう二度と先生と離れない。
　先生は私の生きる源だもの。
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