先生と私の三ヶ月
飛行機の中で、昔やっていたテレビ番組を思い出した。それはいきなりお笑い芸人を外国に連れて行ってヒッチハイクの旅をさせるものだ。彼らが驚く姿をゲラゲラと笑いながらテレビの前で見ていたけど、今は彼らの気持ちがよくわかる。きっと不安な気持ちで堪らなかっただろう。

 忘れ物を届けにパリまでおつかいに行く事になるなんて想像もしなかった。ちゃんと先生の所まで辿りつけるんだろうか。

 ハッキリ言って、海外は不慣れ。
 海外旅行は新婚旅行で行ったハワイの一度だけだし、あの時は英語のできる純ちゃんが一緒だったから困る事はなかった。

 この飛行機を降りた後、どうしたらいいんだろう?税関のチェックとか受けるんだっけ?

 考えるだけで不安。
 旅行の準備も全くできていないし……。

 荷物は黒田さんから預かった黒いショルダーバッグと、パスポート、財布とバッテリーがほとんど残っていないスマホが入った私のバックだけ。着替えはないから、ずっと同じ服を着続けるか、フランスで購入するしかない。できるのかな。フランス語も話せないのに。こんなのやっぱり無謀だ。日本に帰りたい。

 そうだ。眠っちゃえ。目が覚めたら日本に戻っているかも。電車で居眠りして、気づいたら始発の駅に戻っていたみたいな感じで。

 よし、眠ろう。
 起きたらきっと日本に戻っている。

 だけど、そんな事は起こるはずもなく、しっかりとキャビンアテンダントに起こされた。
 飛行機は定刻通り、13時間の旅を終えてシャルルドゴール空港に着いた。
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