先生と私の三ヶ月
「11時5分発のパリ行きのチケットです」
 黒田さんが満面の笑みで差し出してくる。

 えっ? パリ? ……フランスにある、あのパリ?
 まさかおつかいの行き先はパリって事? 望月先生はパリにいるの?

 航空券を見るとしっかりと私の名前が書いてある。
 黒田さん、いい人だと思っていたけど、実は望月先生よりも無茶な事を言う人かも。いくらなんでもパリに行けだなんて、あんまりだ。

「あ、あの」
「望月先生に渡して頂くのはこちらです」
 黒田さんが肩にかけていた鞄をこっちに渡した。受け取ると見た目より軽い。中は一体何が? ――いや、今は鞄の事よりも、パリについて詳しく聞かないと。それに私が行っていいの? 先生は私に怒っているんじゃないの?

「あ、あの」
「葉月さん、もう行った方がいいですよ。搭乗時刻になりますから。こっちです。ついてきて下さい」

 黒田さんが早足で歩き出す。

「あ、あの、ちょっと……」
「葉月さん、急いで下さい」
「えっ、はい」
「葉月さん、早く! 時間がありませんよ」
「は、はい」
 言葉を挟む間もなく黒田さんについて行くしかなかった。
< 63 / 304 >

この作品をシェア

pagetop