先生と私の三ヶ月
 ぶっはっはっはと、豪快な笑い声がいきなり響いた。
 また先生が笑っている。

「お前は本当に……くっくっくっ。俺を笑わせてくれる。面白い奴だな」
 な、何が面白いの? 先生の笑いのツボが全然わからない。背中が熱い。笑われて恥ずかしくなって来た。

「とりあえず風呂入って来い」
 先生がいきなり、持っていた紙袋をこっちに放ったので、反射的に受け取った。

「これは?」
「さっきフロントで受け取ったお前の着替えだ。ホテルの女性に頼んで揃えてもらった」
 着替え……。
 ずっと日本から同じ服を着たままだった。ありがたい。

「黒田からガリ子が手ぶらでこっちに来たと聞いていたから」
「そうなんですよ! 黒田さん、荷造りする時間もくれなかったんです。着替えなくて困っていたんです!」
 恵理さんにお金を借りたけど、何があるかわからないから、交通費以外ではお金を使わないようにしていた。

「黒田の奴は一週間ぐらい同じ服でも平気な奴だからな。そういう所は気がきかんだろう」
「えっ、一週間も」
 夏場の満員電車でおじさんたちからする汗の匂いを思い出してしまった。

 もしかして私も匂うの? 今朝、恵理さんの所でシャワーをお借りしたけど、服は同じだし。だから先生、お風呂に入れと? きゃー、恥ずかしいー!

「お風呂入って来ます」
 紙袋を持ってバスルームに駆け込んだ。
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