先生と私の三ヶ月
 私の顔をよく見ろですって。この平凡で何の面白みのない普通の顔立ちが美しくて、魅力的で、綺麗って……。

 ダメ、ダメ、ダメ。

 真に受けちゃダメ!

 これはきっと、先生の新手の悪戯だ。私の反応を見て楽しんでいるんだ。今日子、思い出しなさいよ。高校時代どんな目にあった? 浮かれてお洒落して出かけたら、さんざんな目に遭ったでしょ? あの時の胸の痛みを忘れたの?

 そう、あの高2の夏――。

 憧れの先輩も行くと聞いたからあまり親しくないグループの子たちと遊園地に行った事があった。引っ込み思案の私にしては積極的だった。それぐらい先輩に恋をしていた。

 少しでも先輩に可愛いと思ってもらいたくて、その当時流行っていたピンク色の――まさしく今着ているネグリジェみたいな可愛いワンピースを買って着ていった。

 不運だったのは一緒に遊びに行く子と服がかぶった事。しかもその子は手足がスラッと長くて、ウエストが細くて、顔も小さくてモデルみたいなスタイルだった……。

 ショウウィンドウに映った私とその子を見た時の衝撃が凄かった。その子より私は顔が一回り大きくて、ウエストも太くて、全然似合っていなかった。私は服の魅力を全消ししていた。私が着ているだけで、ピンクのワンピースは不細工な服になった。

 ――パロディ映画みたいだな。

 彼女と同じ服を着ている私に向かって先輩が放った言葉だ。先輩の言葉にみんなが爆笑し、恥ずかしくて堪らなかった。だけど、先輩は彼女と私の差を的確に表現していた。彼女が美しい恋愛映画だったとしたら、私はそれを模倣して作ったラブコメ、いや、ただのコメディ。もしくはコント。つまり、笑い専門で美しい恋愛映画にはなれない。

 ピンクを避けるようになったのは多分、あれ以来だ。ピンクは私に一番似合わない色――先生、私のネグリジェ姿見て、どう思ったんだろう?

 なんで先生、魅力的だなんて言うのよ……。

 真に受けちゃいけないと思うのに、先生の言葉が耳から離れない。
 胸が熱い。先生がいないのにまだドキドキしている。
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