先生と私の三ヶ月

第5話 恋?

 モンサンミッシェル二日目の朝、ホテルのダイニングルームには魔法の呪文のように響くフランス語があちらこちらで飛び交っている。ここは日本じゃないんだなと実感する。フランスにいるなんて、改めて考えると凄い事だ。

 白い窓枠の向こう側には朝陽に照らされた白い浜辺と瑠璃色の海が見える。なんとも朝からロマンティックな景色だろう。その景色を見つめていると、素敵な小説の中にいるような気がしてくる。例えばそれは恋愛小説とか――。

 目の前には食後のコーヒーを飲んでいる先生がいる。
 いつもあげている前髪がやや乱れて、額にかかっているのが、なんともキュート。昨夜と同じ水色のシャツが少しくたびれているけど、それが朝まで仕事をしていた証のようでカッコいい。無精ひげも少しあるけれど、男性らしいというか、ワイルドというか、色気があるというか……。

 今朝の先生は昨日よりも麗しい。普段からカッコイイとは思っていたけど、こんなにカッコ良かったっけ?
 
「なるほどな。ガリ子には悪い魔法が沢山かかっているんだな。まあ、いろいろと拗らせて来たんだろうなとは思っていたがな」

 コーヒーカップを置いた先生は私の話を聞き終わると、楽し気に笑った。今、私の高校時代の――憧れの先輩にパロディ映画だと言われたピンクワンピース事件の話をしていた所だった。

 私の前で簡単に笑わないで欲しい。心臓がドクンって反応するから。先生とモンサンミッシェルで再会してから心臓が敏感過ぎて困る。どうしちゃったんだろう、私の心臓。これも慣れない外国のせい? それとも……

「何だ?」
 先生と視線が合った瞬間、また心臓がびっくりしたように跳ねた。
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