夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
そんなつもりはなかった

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 北関東にある町の、ごく普通の家庭に菜胡は次女として生まれた。
 両親は二人とも健在で、定年退職をした父親は、自宅の庭を畑に作り替え自家用の野菜を育てる事を趣味に余生を楽しんでいる。姉が一人いて、結婚し近くに居を構え三人の子育て中だ。

 叱るということをしない穏やかな父、その反面厳しい母、それから姉や親戚など多くの人の愛情を受けて、菜胡は育った。

 菜胡の身体には生まれつきの痣がある。単純性血管腫と診断されたそれは、主に右の乳房に薄く広がっていて、よく見れば腕や太ももにもある。このため幼い頃からしょっちゅう大学病院の皮膚科へ通っており、その中で接していた皮膚科外来のナースに憧れを抱いたのはごく自然な流れだった。
 その頃から看護師になる夢を抱き、幼稚園に通う頃から『おおきくなったらかんごしになる』と言い続けてきた。

 高校受験の年。県内にある衛生看護科の二校を受験し合格した。高校生としての基本的な勉強に加えて、基礎看護なども並行して学んだ。二年の後半になると病院での実習が始まった。そうして衛生看護科で三年学んだ後に都内の看護学校へ進学し、更にそこで二年。卒業後は同じ看護学校の先輩が複数就職している縁で、下町の病院へ就職した。

 同期は五人居て、一人が手術室、三人が病棟、菜胡は整形外来に配属となった。病棟と手術室は関わりがあるため、四人は何度か食事に出かけたりしていたが、外来の菜胡には声がかからなかった。菜胡自身もそういう付き合いは苦手なところがあったから寂しいと感じる事も無かった。
 どうしたって同年代の女の子が複数集まれば恋バナに発展するもので、そういう話題になった時、話せる気がしなかった。初カレに言われた事が尾を引いていて恋愛は避けていたからだ。
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