夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

 看護学校に入ってまもなく、同じクラスの男子生徒と仲良くなり、やがて付き合いが始まった。毎日が楽しくなった。二年生の後半で始まる実習でも教え合い支え合えたらと期待を膨らませていた。

 手を繋ぐ程度の付き合いが二週間ほど続いた頃、菜胡の部屋で勉強をしようという話になった。初めて男性を部屋にあげる事に緊張もした。室内に入るなり性急にベッドへ押し倒され、服を脱がされた時、彼が動きを止めた。

「なんだ? これ」
 彼の視線は右乳房にあった。痣だ、と解った。

「気持ち悪い……」
 この痣は決して人に感染るものではなく、また悪性のものでもない。痒かったりすることもないので菜胡は特に話もしなかったが、それが気に入らなかったらしい彼は怒り出した。

「それなに? 何で黙ってたの? あるって知ってたら付き合わなかった、萎えた、帰る」
 半裸状態で放置され、一言も発することができないまま、彼は部屋を出て行った。

 なにが起きたかわからなかった。汚いものを触ったかのように言われ、そういう目つきで見られた。好きになりかけていた。この人とならと思え、身体を預ける覚悟ができたところだった。

 だから彼からぶつけられた言葉は菜胡の心にトゲとして残り続け、これ以降、恋愛に発展しそうになるとトゲが痛んだ。

 痣のことを伝えなければまた怒らせてしまうかもしれない、でも痣を知ったら気持ち悪いと離れていくかもしれない。それだったら好きになんてならない方がずっと気が楽……。

 幸い、菜胡には姉がいて、跡取りだとかそういうのを考えなくていい。だからもう恋愛なんてしなくていい。

 そんな風に思うくらいだから、同世代の恋バナは聞きたくなかったし関わりたくなかった。話を振られた時、(かわ)せる気がしなかった。

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