夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

 夜勤の間中、気が気でなかった。菜胡はどうしただろうか。当直が陶山に代わっているからあの若い医師に何かあったはずで、もしそうだとしたら自分に咎めも来る。いずれ話は拡まる。
 その若い医師と当直を交代した陶山は夜勤の間中、病棟に何度も顔を出した。棚原から頼まれた事もあるし、浅川と接触しようとしていたのもわかった。唆したことについて何回も聞かれたが、その度に「何も知らない」を貫いた。陶山はしつこかった。菜胡のために動いていたのだ。陶山はこちら側の人間だと思っていたのに、結局、菜胡なのだ。

 この騒ぎを知ってか知らずか、この夜の当直は看護部長だった。部長は浅川と目が合って一瞬眉を顰めたものの、事件については何も言って来ず、それがまた気味が悪かった。無言で責められているようで居心地が悪かった。それだったら激しく叱責された方が何倍も楽だとすら思った。だが退勤時まで看護部長は何も言わなかったのに、帰りがけに一言、すれ違いざまに言われた。
『沙汰が下りるまで寮から出ないように』
 その言葉だけで、全てを悟り、眠れないまま朝を迎えた。どうしたらいいのだろうか。菜胡に謝りにいけばいいのか。内科医とは電話すら通じなくなっていて連絡の取りようがなかった。誰にも相談できない状態で、いま、大原が来てくれたのだ。

 大原は大きく息を吐いた。

「……同情の余地も無いわね。バカよ。自分がどれだけ評価されているか知ろうともしないで外来に拘って、菜胡と張り合って!」
「おおはらさんっ……あた、あたし……どうしたらいいですか……」
「さっき師長とも話したわ。明日には処分が言い渡されると思うけど――」
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