夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

3

 仕事を終えて寮へ戻ってきたら、部屋の前に知らない医師が居た。
 名前を聞かれたため答えれば、笑顔で「遊んで欲しいって聞いた」と言ってきた。

 耳を疑った。棚原と付き合っておりそんな事頼むはずがないし、付き合っていなかったとしても頼むわけがない。
 ここにいてはだめだと、踵を返した。どこか逃げ込める場所、と走りながら考え、食堂を思い出した。

 ――おばちゃんのところ……! 

 走った。けれど足が重たくてなかなか前に進めない。モタモタしている間に、医師はどんどんと距離を縮め近づいてくる。心の中で必死に棚原の名を呼んだ。

 平時では躓かないような段差に足を取られてしまった。あと少しでおばちゃんのいる食堂なのに、と思いつつ、伸ばされる腕に恐怖を覚えた。強く腕を掴まれ、連れて行かれそうになるところを必死で抗った。

「やだ! 離して!!」

 ――紫苑さん! 紫苑さん!

 上がる息、じっとりと汗ばんだ額。目に映る室内の様子から、棚原のマンションに居るのだとわかった。棚原の匂いがして、暖かく力強い腕に包まれていた。

「どうした、夢を見た? 大丈夫だよ、菜胡、大丈夫だ」
 聞き慣れた優しい声が耳に届いた。菜胡を覗きこむ包む全てが優しく、ホッとした。
< 72 / 89 >

この作品をシェア

pagetop