例えば今日、世界から春が消えても。
彼女がそう言うのも無理はない。


だって、今の僕達は真夏の世界に居るわけだし、周りに居る人は全員半袖を着て素肌を晒していたのだから。


「あー、」


自分の身体の末端から徐々に体温が奪われるのを感じながら、僕は無理やり笑顔を作る。


「全然、暑くないよ」


それが明らかな嘘だと分かるはずなのに、彼女は目を見開いて感心したように頷いた。


「凄いね、私なんて暑すぎて汗止まらないのに。尊敬しちゃう!」


いや、僕からしてみれば、いつも笑顔で明るい君の方が凄いし尊敬しているんだよ。

とは恥ずかしくて言えないから、僕は曖昧に笑ってその場を流す。


右腕の古傷が、疼き始めたのを感じた。



「食べ終わって休憩したら、次は何処に行く?午前中にはしゃぎ過ぎたから、少しゆったりした乗り物に乗るのも良いと思うんだよね」


その後、さくらはホットドッグを食べながら遊園地の地図を広げて真剣に考え始めた。


「うん、それが良いと思う」


対する僕は昼食を皿に置き、後ろ手で右腕を押さえ続けていた。


今日、雨が降るという予報はない。

だから、今古傷が痛み始めたのは単純に僕の精神状態の変化が原因なんだと思う。


いつもは他の事に注意を向けていれば痛みは治まるのに、今回は逆に酷くなってきている気がして。
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