例えば今日、世界から春が消えても。
さくらと出会ってから3ヶ月。


意外にも涙脆い彼女が涙を流すところは、今までに何度も見てきた。


でも、彼女がこんなにも感情を顕にして肩を震わせて、嗚咽を漏らしながら泣くところを見たのは初めての事だった。


それに、今の彼女はこれまでと違い、自分の願いのせいで春が消えた事を、そのせいで1人の人生が狂わされた事を心の底から悔やんで泣いているんだ。


「ごめんなさい、取り返しのつかない事しちゃって、ほんとに、ごめんなさっ、…!」


違うよ、さくら。

此処が何処だか忘れたのかと疑ってしまう程に激しく咽び泣く彼女の手を、僕はそっと握り締める。


季節なんかより命が大切なのは、当たり前の事じゃないか。

それに、僕が謝りたかったのにどうして君が謝る流れになっているんだ。


「冬真君、死んじゃやだあっ…!」


その直後に鼓膜を震わせたさくらの悲痛な叫びに、“大丈夫だよ”と言おうとしていた僕は愕然と目を見開いた。


…何で、今も死の恐怖と闘い続けているはずの君が、僕の死を本気で嫌がっているんだよ。

僕は、君が生きている限り死なないのに。

死ねるわけがないのに。


さくらにその言葉を言わせてしまった自分は、やはりどうしようもなく情けない人間だ。


「…謝らないで」


口を開いた瞬間、彼女の涙が伝染して声が震えた。
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