例えば今日、世界から春が消えても。
またやってしまった。

後先考えずにものを言って人を傷付けてしまうこの性格を、何とかして治さないと。



「冬真君」


言葉を中途半端に途切らせた状態で、そんな事を考え始めた矢先。


僕はさくらに名前を呼ばれて、


「んっ…、!?」


そのまま、唇を塞がれたんだ。


温かな彼女の唇が、僕の唇と確実に触れ合っているのを感じる。



…今、何が起こっているんだ。


顔が一瞬で火照るのを感じ、視界の下の方に映るさくらの前髪が揺れるのを何とか確認する事が出来る。


僕は今、彼女にキスをされているのか…?



「駄目だよ、そういう事を言ったら」


暫くして顔を離したさくらは困ったように笑いながら、僕の唇に人差し指を当てた。


そこで、彼女のキスは恋愛感情からではなく、僕が紡ぐ言葉を止める為だったという事を、熱くなって故障しそうな頭で初めて理解した。



「その続き、死んでも聞きたくないからね」


何故なら、そう言い切ったさくらの目は笑っていなかったから。



僕達を乗せるゴンドラは、間もなく頂上付近に達しようとしていた。


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