オー!マイ・ハワイ!
6.ミス富山大会で

まなみの元婚約者、隆史は富山では有名な米農家の御曹司。父親がかなりやり手で、人を雇ったり、新しい農機具をどんどん取り入れながら、後継ぎのいなくなった田んぼを買い取って、収穫量を増やしていた。

俺の会社の農機具も、たくさん納品していて、隆史とも面識があった。豪快で、酒飲み。男気があって約束は守る。周囲の信頼も熱い。中肉中背、イケメンということはないけど、それは中身の素晴らしさでカバーしていた。

飲みの席では、もっと富山のお米のよさを日本中に知ってもらうんだと、鼻息荒く語っていた。客と取引先という関係ではあったが、隆史のことは一目置いていた。きちんと目標があって、それに向かっていく勇気は見習いたいほど。

飲み会の席で、その姿勢にふれると、自分もまだまだがんばろうと、勇気さえ与えてくれる、そんな人だった。

「北山さん。北山さんの夢ってなんですか?」

隆史にそう聞かれて、思わず考えて天井を仰ぐ。

「夢ですか? 特にないですね。今の現状に満足してます」

「だめですよ、北山さんともあろう優秀なひとが。フェラーリに乗りたいとか、もっといい家に住むとか、ないんですか?」

あんまり夢や目標ってものを意識したことはなかったな。とりあえず、食って生活していければ十分。そう思っていた。

ひとつだけあるとすれば、由香にまた会いたい。それくらいだろうか。

「俺は、まだまだ欲しいものいっぱいあるんですよ。車に、時計に、女の子!」

思わず、ぶっ! と飲んでいたビールを吐きそうになった。すごいなこの人は。なるほど彼の原動力はそこにあるのだな。

「すごいですね。目標に向かって努力なさる姿勢、尊敬します」

「いやいや。北山さん、やりたいこととかもないんですか?」

やりたいこと。仕事でいい結果を残したい? 給料もっとほしい? 剣道の道場を開きたい? 誰かと結婚したい?

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