なにもしらないきみへ

プロローグ

「なあ、柊花。何か食べたいもの、あるか?」
「大丈夫。ありがとう」
「そっか。───明日は俺たちの記念日だな」
「明日?ああ、ふふっ、付き合った記念日も数えてるの?」
「当たり前だろっ、一番目の記念日だ」
窓の外に目をやると、小さな雪がしんしんと降り積もっている。記念日である明日はとても冷え込みそうだ。
そんなことを考えていると、横から温かい体温を持った手が伸びてきた。
「寒く、ないか?」
頬に添えられた手は男の人にしては優しく滑らかな肌で、だけど大きくて、そしてやっぱり温かい。
───私は、彼に何を残せただろうか。
優しく包み込んでくれて、記念日にはたくさんのサプライズを仕込まれて、驚き、笑い、どうしても最後の手紙には涙して、幸せをくれた彼に、私は何か一つでも残してあげられただろうか。
「ねえゆうちゃん?」
「なに?」
「大好き」
「急だなあ。俺も大好きだよ」
横で微笑みながら愛する言葉をかけてくれる彼を、私はずっと見ていたい。指先まで、まつ毛の先まで、寝癖まで全て。
ああ、私今───幸せだなぁ。
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