コンクリートに蝉の抜け殻



「なんか」

「ん?」

「蝉の抜け殻って、こんな気持ちなのかな」

「はあ?」

「あは、ごめん。変なこと言ったね」



保科はしばらく考えるようにどこかを見つめていて、こちらに視線をもどして、さらに深い角度で首を傾げる。



「考えたけど、よくわからんかった」

「わたしも変なこと言ったなって自覚、あるよ」

「どういう意味?」



聞かれるとは思っていたけれど、そんなに興味津々に聞かれるだなんては思っていなかった。しどろもどろにならないように、と、いちど大きく息を吸い込む。



「……保科がコンクリートとか木とかで、蝉が、抜け殻を置きゆく場所を探してて。そのうち、居心地のいいところを見つけるんだ」

「ん」

「蝉が、保科っていう居心地のいいコンクリートや木に出会う話」

「俺、居心地いいの?」

「うん。そう思う。でも、わたしが蝉なわけじゃなくて、わたしは抜け殻だから」

「つまり?」



つまりね、と、保科の言葉を繰り返す。



「もう、気持ちはそこにないんだよ」

「うん?」

「蝉には感情があると思うけど、抜け殻は抜け殻で、感情はないでしょ?」

「そうだね」

「感情はないと思うけど、コンクリートや木にくっついてると、安心するんじゃないかなって。急に考えた」



保科と目が合う。本当になに言ってるんだ、と自分で自分に突っ込んだ。わたし自身ですら意味がわからない。それを保科に理解してくれというように説明して、ああ、失敗した。


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