恋をするのに理由はいらない
 「はぁ? なんで俺が運転手なんだよ!」

 眠すぎて思い切り顔を顰めて鍵を差し出す俺に、颯太は不満気だ。

「居眠り運転で死にたくなければお前が運転しろ」

 それに「へいへい」と渋々鍵を受け取ると颯太は運転席に向かった。

「いち兄、大丈夫? 昨日は仕事……じゃなかったよね?」

 後部座席に乗る俺に、助手席から振り返りながら実樹は言う。

「ハメ外しすぎたんじゃね?」

 俺が答える前に、颯太は笑いながら口を挟む。

「うるせぇ。お前は黙って運転してろ」
「お~こわっ。じゃ、出発するぞ~」

 颯太は軽い調子で前を向くとハンドルを握った。

 今日は弟たちと久しぶりに実家に帰る。そのまま泊まり、こっちに戻るのは明日。休みの最終日だ。
 朝まで澪の家にいた俺は、眠気と戦いながら家に帰った。なんせ、次に澪と会えるのは早くて来週末だ。だから、まぁ……無理はさせた、と思う。俺が家を出るときも、澪はベッドの上で気怠そうに『いって……らっしゃい……』と言っていたくらいだから。

 俺だって、一晩に何回やったかわからねぇなんて、初めてだっつうの……

 目を瞑り、腕を組んで扉に凭れ掛かる。実家に着くころには眠気も収まっているだろう、と思っていたら、颯太が俺に話しかけてきた。

「なあ、兄貴~。彼女できただろ?」

 それにいち早く反応したのは実樹だ。

「そうなの? いち兄!」

 このまま大人しく寝させて貰えるわけねぇか、と俺は深く息を吐いた。
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