恋をするのに理由はいらない
「俺の情報収集能力、舐めんなよ?」

 颯太は得意げにそんなことを言っている。
 確かに颯太は、会社でもそんな仕事をしていて、そういうことには長けていた。昔から颯太の周りには男女問わず人がいて、いつのまにか颯太の虜になるヤツは多い。まぁ、それが元で修羅場に発展することも多々ある。いつか殺傷沙汰になるんじゃねぇかと心配はするが今のところ大丈夫だ。と言っても、平手打ちをされたのは一度や二度じゃないが。

「兄貴~。寝てんのか~? せっかくとっておきの情報話そうと思ったのに~」

 俺がずっと黙りこくっているからか、不満そうに颯太が声を上げている。

「なになに? とっておきって?」

 実樹が興味津々で尋ね、颯太は「あぁ……」と溜めたあと続けた。

「俺さ、社長秘書と仲良いんだけどさ。って言ってもだいたい愚痴聞くだけだけど。この前言ってたんだよな、その人が。うちのお嬢が今度お見合いするって」
「はっ? なんだそれ! 俺は聞いてねぇ!」

 さすがに飛び起きて声を上げると、バッグミラー越しにニヤニヤした颯太と目があった。

「なんで兄貴が驚くのさ~。もうお嬢とは関係ねぇじゃん」

 コイツ……やっぱりわかって言ってんな……

 俺は起こした体をまたシートに沈めると「うるせぇな。続き話せよ」とぶっきらぼうに尋ねた。
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