恋をするのに理由はいらない
 伊達に何年も、私を間近で見ていない。自分ではそう感情を露わにしていないと思っていても、コンビを組んでいる萌の目は誤魔化せないのだろう。

「そう……見えるならそう、なのかも」

 素っ気なくそう答えて私着替えを取り出す。隣ではようやく練習着に頭を入れた萌が、服を整えていた。

「世間では、クールビューティー澪様で通ってますが、私にはわかりますよ!」

 私とは正反対の豊かな表情で萌は声を上げる。私はと言うと、長年セッターとして冷静でいることが染み付いてしまったからか、元からの性格なのか、特に喜ぶと言う感情を表に出せないでいた。だから、試合に勝ってもあまり嬉しそうに見えないみたいだ。そしていつのまにか、そんな呼び名で呼ばれるようになっていたのだ。

「何言ってるのよ。ちょっと美味しいランチ食べたからじゃない?」

 ロッカーに顔を向けたままそう言うと、「またまたぁ!」と、萌は笑う。
この部屋に私たちしかいないからか、萌は遠慮することなく続ける。

「恋バナならいつでも付き合いますよ?」

 その言葉に思わず萌の顔を見上げると、萌はニコニコと私を見ていた。

 本当、高校生のころから変わってないんだから……

 その顔を見て、昔を思い出す。バレーに打ち込んだ学生時代。彼女の息抜きは漫画を読むこと。特に恋愛ものが好きで、よく私にも貸して……と言うより押し付けられていた。結局私も同じように、自分とは縁遠い空想の世界を楽しんではいたんだけど。

「ないない。あるわけないじゃない」

 期待されても、いい年した大人がひっそりと片想いしてる言えるはずもない。最近萌が貸してくれる、目眩く大人の恋愛漫画のような恋など、私にはやってくるわけないのだから。
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