恋をするのに理由はいらない
「創っ!」

 澪は手を離すとそのまま創一に抱きついた。

「はっ?」

 いくら、なんとも思ってないただの従兄弟だと聞いていても、さすがにこれは面白くない。だが、面白くないのは創一も同じだったようだ。

「誰だ、澪にこんなに飲ませたのは」

 眉間に皺を寄せた創一に、睨まれるように尋ねられ、「颯太」と答える。

「颯太に、今度会ったときは覚悟しておけと言っといてくれ」

 ぶっきらぼうに言う創一に、澪は抱きついたまま話し出す。

「さっきね、一矢の家でゲームしてたの。楽しかったよ? 今度創も一緒にやろぉ?」

 完全に酔っ払いと化した澪に、呆れたように息を吐くと、創一は澪の肩を持ち引き剥がした。

「抱きつくな」
「いいじゃなぁい。電信柱に抱きついてるみたいなものよぉ」

 むちゃくちゃな言い分だが、さすがに俺は面白くないままで、澪の腕を引いて自分に引き寄せた。

「電信柱なら俺でもいいだろ」

 おぼつかない足取りのまま引き寄せられた澪は、前を向いた状態で俺の腕に収められていた。
 それを見た創一は、思い切り顔を顰めている。そう言えば、付き合っていると伝え忘れている気がしないでもない。

「澪。お前は酔うと面倒くさいんだから気をつけろ……」
「そんなことないもん!」
「今度からはあんま飲ませねぇよう気をつける」

 澪の代わりに俺が言うと、「そうしてくれ」と創一は呆れたように言った。

「ねぇねぇ、創! 言ってなかったけど、一矢と付き合い始めたの。創も片想いの相手とうまくいくといいね!」

 悪気なく言う澪に、創一は面食らったような表情になった。だがなぜか俺の顔を見て、今日一番の深い溜め息を吐いたと思うと「……そうだな」とだけ言い残し、エントランスから出て行った。
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