恋をするのに理由はいらない
「何? 一緒がよかったのか?」

 一矢は不思議そうに私に尋ねる。私もそれに同じような表情で返した。

「そうじゃないけど、だいたい今まで一緒だったから。別々なんて考えてなくて……」

 ありがちかもしれないけど、残念ながら子どもの頃からお祝いはクリスマスと一緒だった。だから、本当の自分の誕生日にはもうお祝いムードもなく、普通に過ごすことが多かった。だいたい世の中は、クリスマスも終わり、次はお正月か、なんて空気だったし。

「別にあるに決まってるだろ。クリスマスプレゼントは"おまけ"みたいなもんだ。それよりほらっ」

 そう言って一矢は私に見せるように腕時計を差し出した。ほぼ重なった長針と短針。そして、秒針もまもなく重なろうとしていた。

「3、2、1……」

 気の早い年越しカウントダウンのように声を弾ませた一矢は、秒針が重なった途端私を真っ直ぐ見つめた。

「誕生日、おめでとう。澪」

 日付けが変わってすぐ、こんな間近でそんなことを言われたのは初めてだ。それも、大好きで大事な人に。

「あ……の。嬉しい。誕生日がこんなに嬉しいのって久しぶり……かも」

 感極まって浮かんでいる私の涙を、一矢は少し決まり悪そうな顔でそっと拭ってくれる。

「それだけでそんなに喜ばれたら、ちょっとやりずれぇけど……」

 何がだろ? と思っていると、一矢はまずネクタイに手をやった。緩めるのかと思ったら、何故かそれを締め直して、上着もキチンと整えた。
 そして、その意図が掴めずボサっと様子を眺めていた私の前に突然跪くと、私を見上げた。

「枚田澪さん」

 顔は赤いのに、物凄く真面目な顔で私を呼ぶ一矢に「はっ、はいっ!」とうわずった声で返す。

「俺と、結婚してください」

 差し出された箱は、ファッションに疎い私でも知っている特徴的なブルー。
 それを一矢が開けると、そこにはもちろん、光り輝くダイヤモンドのリングが入っていた。
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