恋をするのに理由はいらない
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 振り返ってみれば、あっという間だったのかも知れない。
 だが現実には、澪にプロポーズしてからもう2年以上が過ぎた7月の連休中だ。もちろんその間、色々なことがあった。
 特にこの半年ほどが一番ありすぎて、俺は今自分がここにいるのは現実なのかと頰を抓りたくなるくらいだった。

「ねぇねぇ! どんなのがいいかなぁ?」

 真っ白なドレスが並ぶ一角でワクワクした表情で俺に尋ねたのは……与織子(いもうと)だ。

「あ~……与織子(よりこ)ならなんでも可愛いし似合う」
「もうっ! いっちゃん、真面目に考えてよ! 創ちゃん、どんなのが好きかなぁ……」
 
 与織子は俺が少々投げやりに答えたことに頰を膨らませつつ、次の瞬間には自分の婚約者を思い出すようにうっとりしていた。

 未だに慣れない……。可愛い妹があの創一と結婚するなんて……

 創一には早く結婚相手を見つけて欲しいとは思っていたが……と俺は溜め息を吐きながら上機嫌の妹を眺めていた。
 
 澪にプロポーズしたとき、俺は言った。

『すぐには結婚できないと思う。とりあえずもうちょっと上の役職についてから。あと……創一が結婚、いや、せめて婚約者見つかってからじゃないと……』

 そのとき澪は笑いながら、『それはなかなかハードル高いわね』なんて言っていた。正直、かなり待たせてしまうのは予想できた。

 そのハードルのうちの一つ目。昇進は、簡単ではないが認められさえすれば叶うと思っていた。
 2年前の4月、俺はソレイユの担当から外れ広報部の係長、いや、実際には課長代理だったんじゃねぇのか? って言うくらい働かされた。まぁ、そこから2年で部長に昇進するなんて自分でも思っていなかったが。

 そのうえ、旭河の次期後継者に指名されるなんて、夢にも思っていなかった。
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