恋をするのに理由はいらない
 無事に披露宴も終わり、なんとなく色々と終わった気がするが、実際はここからだ。今はなんとか1セット目をもぎ取った。そんなところだ。これからもずっと続く人生に澪がいて、一緒に試合に臨み、そして点数を重ねて行くのだから。だが、このゲームに終わりはない。いったいどんな流れになるのか、楽しみではあった。

「さすがに結婚式のハシゴは疲れたね」

 式場近くのホテルの部屋。口ではそう言いながらも、澪はアルコールが入りフワフワした様子で楽しそうに笑った。

「ま、出発は明日の夜だし、それまではゆっくりできるな」
「だね。私たちだけ新婚旅行に行くの、なんか創と与織子ちゃんには申し訳ないけど」

 フォーマルスーツの上着を脱ぎソファの背にバサリとかけると、俺はそこに座る澪の横に腰掛けた。

「まぁ、しかたないだろ。俺は抜けてもなんとかなるが、あの2人が今職場抜けたら大惨事だろうしな」

 そうなのだ。俺たちは明日から1週間、新婚旅行に向かう。最初は俺もそんなに長く、と思ったが、『部長が旅行に行かなかったら、他の社員が誰も行けなくなる!』と周りの人間に叱られ、それもそうかと納得したのだ。
 だが、残念ながら色々あった創一と与織子の勤める会社は、今2人同時に抜けようものならたちまち回らなくなる。少し時期をずらして近場に旅行に行く、と与織子は楽しそうに話していた。

「お土産、いっぱい買ってこなきゃね!」

 あんなに笑わないと思っていた澪は、すっかり笑顔が普段の顔になった。
 俺はそんな澪を抱き寄せると、頰に唇を落とした。

「そんなことより。初めての夜を楽しまねぇ?」

 元から赤みのさしていた頰をより赤くした澪の顔を覗きこみ俺は言う。

「初めてって……。全然初めてじゃないじゃない」

 これから何をされるのか予想がつくのか、澪は瞳を揺らしながら俺を見ている。

「そんなことないけど? ……俺さ」
「何?」
「早く子ども欲しいなって、思ってんだけど……」

 澪は驚いたように目を開き、そしてそれを細めた。

「奇遇ね? 私も」

 そう言うと、スルリと俺の首に腕を回した。

「……よかった」

 小さく返すと、俺は澪の唇をゆっくり味わった。
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