恋をするのに理由はいらない
never ending
「でね。これをミキサーにかけちゃうの。簡単でしょ?」

 キッチンに立った私は、さっき用意した材料を小型のミキサーに放り込みながら説明した。

「ですね! これなら私にもできそう!」

 私の隣で一生懸命メモを取っていた与織子ちゃんは、頷きながら声を上げていた。

 結婚するまで創のご飯を作っていた私は、さすがに2人が結婚してからはお役御免と思っていた。でも仕事の忙しさでクタクタで、家事に手が回らなかった与織子ちゃんのために、2人が結婚後もしばらくご飯を作っていた。
 それも落ち着いたころ、いよいよ与織子ちゃんにバトンタッチしたわけだけど、『一生澪さんのご飯食べたかったです』としょげる彼女を『いくらでも教えるから』となんとか宥めたのだった。

「どうだ?」

 キッチンに様子を見に来たのは創だ。その腕には3歳の女児が収まっていた。

「あ、創ちゃん。大丈夫そうだよ? 任せて!」
「そうか。頼もしいな」

 私から見れば、可愛い奥様に鼻の下を伸ばしてデレデレの創は、与織子ちゃんに微笑んだ。

「ところで、なんで(ゆう)は創に抱っこされてるの?」

 私が洗った手を拭きながら振り返り尋ねると、優は創の首に余計にしがみついた。

「優は創ちゃんが大好きだからいいの!」

 いったい誰に似たのやら……

 私はニコニコとしている自分の娘を見て溜め息を吐いた。
 どちらかと言えば顔は一矢似の娘はいつのまにか創大好きっ子に育ち、一矢はいつもそれを複雑な表情で見ているのだ。

 向こう側からタタタっと軽い足音が聞こえると、こちらは創の足元に駆け寄った。

「創一! 優を離せ! 優は僕のだぞ!」

 勢いよく握り拳で足を叩く3歳男児の姿に、創はほとほと困り果てているようだ。

(りょう)! 人を叩くのはよくないわよ?」

 渋々手を下ろすと、凌は「だって……」なんて口にする。

 顔は私に似ているけど、わんぱくぶりは一矢の幼い頃にソックリだと義理の両親にお墨付きをもらった息子は、あからさまにシュンとしていた。

「だってじゃありません! 優もいい加減に降りなさい。もうすぐご飯の用意始めるわよ?」

 私の号令に、2人は声を合わせて「はぁい」と返事をする。
 こう言うとき、双子は息がぴったりだ。
< 169 / 170 >

この作品をシェア

pagetop