恋をするのに理由はいらない
 プライベートの連絡先を貰ったその日。私は一人部屋のソファに転がり悩んでいた。

 なんて送ったら……いいんだろ?

 そういえば、27にもなるのに今まで彼氏はともかく、男友達すらいたことはない。男の人相手にプライベートでメッセージを送ったことなんてない。……いや、一人だけいる。

 私はその相手とのメッセージのやりとりを遡って眺めてみた。一番最近、と言ってももう一月近く前のはこうだ。

『出張の土産を明日持って行く。叔母様に伝えておいてくれ』

 私が送られてきたそれに、OKとスタンプを送り返しただけで終わっている。その前のやりとりはこうだった。

『北海道に出張に行くことになった。土産は何がいい?』

 私は、『これ。よろしく』と、地域限定のお菓子の画像とURLを送りつけただけだった。

 な……なんなの? このやりとり……

 いくら相手が気心の知れた一つ年下の従兄弟、(そう)だとしても、これはさすがに可愛げがなさすぎる。自分のことなのに、今更ながら愕然としてしまった。

 だから私はもう数十分も、メッセージの画面を開いたまま何の文字も打てずにいた。

 可愛くないと思われてもしかたないけど、今更可愛くみせるのも無理な話だ。そんなことをしたところで、気持ち悪がられるに違いないだろうし。
 悩んでもしょうがない、と私は簡単に仕事のときと変わらないメッセージを送る。
 なんとかやりとりをして、一矢とご飯を食べに行くのは日曜の夕方に決まった。ほんの、数日後だ。

 そしてその約束の日。
 練習はほぼ1日中だけど、終わるのは夕方4時だからまだ早いほうだ。
 練習中気を抜くと浮き足立ってしまいそうで、今日のことは考えないようにしていた。でもそれも終わると途端に意識してしまう。

 とりあえず、いったん頭もクールダウンしなきゃ

 待ち合わせまで時間はある。できるだけ更衣室でみんなとかち合わないようにしたい。絶対に着替えたらツッコまれそうな服装。それに、ちゃんとメイクもしたい。さすがにいつものような、『あとは家に帰るだけだし』って言う適当な服装とメイクで向かう勇気はない。

 私は、事務仕事残ってたはずと、着替えもせず事務所に真っ直ぐ向かった。
< 27 / 170 >

この作品をシェア

pagetop