恋をするのに理由はいらない
 この4月、俺は係長に昇進した。
 旭河(うち)の序列で言うと、主任を飛び越えての係長という立場に加え、最年少と付けば周りの視線は厳しい。
 おかげで、本来の、ソレイユの本社担当、と言うだけでなく、本社広報部の仕事も受け持つことになり、二足の草鞋状態になっていた。

……ったく。人遣い荒すぎだろ……

もちろんこれも、社長の言う『人とは違うレール』だ。これくらいこなせなくて、これからどうするんだと暗に言われているような気もする。

 上を目指すのは、朝木家(こっち)の都合。だから今俺は、がむしゃらに働くしかない。
 この山を越えれば、澪の顔を見に行くことができる。ちょうど今日で合宿も終わり、またチームに戻ってくる。俺はただそれだけを目標に仕事を片付けていた。

「朝木係長。ソレイユのクラブハウスからお電話です」

 慌ただしい午後の時間帯。元々向こうから本社に電話で連絡があることなど稀だ。少し胸騒ぎを感じながら俺は電話を取った。
 そして聞かされた内容に、指先がすうっと冷たくなっていくのがわかった。

「今からそっちに向かいます」

 それだけ伝えると、すぐさま部長の元へ向かう。自分の聞いた話だけを簡潔に説明し、そのまま本社を出るとタクシーでクラブハウスに向かった。
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