恋をするのに理由はいらない
 さっきまで、色々話をした。
 そして、私たちの間には色々と誤解が生じていたことがわかった。

 まず、一矢が真っ先に言い出したのは、『戸田さんからのプロポーズ、断ったのか?』だった。
 全然思い当たる節がなくて、『プロポーズって何のこと?』と尋ねて返ってきたのは、決まりの悪そうな表情と、退院前日に立ち聞きしてしまったと言う会話の内容だった。

「プロポーズなわけないじゃない! だいたい、戸田さんに他に好きな人いるの知ってるもの。片想いだって言ってたけど」

 それを聞いたのは随分前のことだ。なんでそんな話になったのか思い出せないけど、戸田さんはこう言っていた。

『こんな年になって片想いするなんて思ってなかった。相手には言えないけどね』

 私の話を聞いてホッとしている一矢に、私も悩んでいたことを打ち明ける。

「私だって、萌に……その。嫉妬……してたんだからね?」

 恥ずかしくて顔を背けながらチラッと一矢を見ると、その顔は嬉しそうに笑っている。

「へー。嫉妬してたんだな。妹思い出すから可愛がってただけ、だけど?」
「うるさいなぁ。いいでしょ!」

 そっぽを向いて答えると、一矢に抱き寄せられ耳元で囁かれる。

「で、俺のこと、どう思ってるわけ?」

 突然の豹変に、心臓が飛び出しそうだった。
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