恋をするのに理由はいらない
 帰りの車もまた無言。20分の辛抱だけど、この空気を作り出したのが自分だと思うと居た堪れない。それに、一矢もずっと難しい顔して運転していて、やっぱり怒らせてしまったのかと私は項垂れていた。

「お茶、入れてくるからソファに座って待ってて」

 会話らしい会話もなく家に着き、私はそう言う。一矢は短く「あぁ」と返事をすると、リビングへ向かった。

「はい、どうぞ」

 グラスに入れた冷たいお茶をテーブルに置くと、私は一矢が座るソファに、少しあいだを取って座る。
 一矢はグラスを手にすると、しばらく何か考えてから、一気にお茶を飲み干しテーブルにグラスを置いた。

「話、俺から先にしていいか?」

 前を向いたままの一矢に尋ねられ、私は「あ、うん……」と歯切れの悪い返事を返す。そして一矢はクルッと私のほうを見て口を開いた。

「俺、一人で突っ走ってたよな。悪い。自分の気持ちとお前の気持ちに温度差あることを想像してなかった。お前の好きが、本当は創一に対するのと変わらないかも知れないって考えもしてなくて」

 そこまで一気に言うと、一矢は苦しげな表情を見せた。

「え、と。待って……。違うの」

 目を見開いたまま、私はかろうじてそれだけ答える。確かに私はずっと戸惑っていた。でも、一矢のことを創と同じなんて、少しも思っていない。
< 77 / 170 >

この作品をシェア

pagetop