恋をするのに理由はいらない
「私……。不安だったのかも知れない。好きだなんて言われるのも初めてで。付き合ってって言われてないし、どうしたらいいのかわからなくて……」

 一矢は困ったような顔をしてから、薄らと笑みを浮かべた。

「ごめん。悪かった。言わなくてもわかるだろうなんて、勝手なこと思って」

 そう言うと、一矢は私の頭をそっと撫でる。

「俺の彼女になってくれるか?」

 優しい笑みを浮かべて、穏やかに一矢は言う。改めて言われると、照れるよりも嬉しくて……。

「…………うん」

 そう言うのが精一杯だった。一矢はまた困った顔になると、私の頰に手を伸ばす。

「泣いてるところなんて……初めて見た。試合に勝っても負けても泣くことなかったのにな」

 頰に伝う涙を拭いながら、一矢は静かに言う。

「そうだね。……どんな大事な試合に勝っても、ここまで嬉しいと思ったこと、ないかも……」

 泣き笑いしながら答えると、ようやく一矢は笑顔に戻る。

「これからは言いたいことはなんでも言えよ? クレームでも要望でも質問でも、なんでも受け付けるから」
「わかった」

 ふふっと笑い、私はそう返事をしてから尋ねる。

「じゃあ……。私にいつから片想いしてたの?」
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