破れた恋に、火をつけて。〜元彼とライバルな氷の騎士が「誰よりも、貴女のことを愛している」と傷心の私に付け込んでくる〜
 燃えてしまえば致命的な木製の船なので、あくまで脅し程度の数しか飛んでは来ないけど、あの船に彼が居るという証拠でもあった。

「もしかして……クレメントなの? 嘘……おかしいくらいに、あの船速度が速いわ。凄い!」

 この船を追いかけてやって来る船は、ラウィーニアが目を見張ってそう言った通りに尋常ではない速度で私たちの乗っている船に近付いてくる。

「風の騎士も、きっと乗船中なのよ。ラウィーニア! 良かった。助かったわ。彼ら筆頭騎士が来てくれれば、もう安心だもの」

 私は実戦する様子を見たことがあるのはクレメントだけだけど、国民自慢の筆頭騎士と呼ばれている彼らが本当に強いのは良く知っている。

 船員たちも、慌てている訳だ。

 だって、コンスタンス様が、愛するラウィーニアを誘拐した者とそれを共謀した者たちをタダで済ませるとは……とても、思えないもの。

「どうやって追いかけて来たのかは、わからないけれど……ディアーヌ。私たち、助かったわ。良かった」

「ラウィーニアがあんな風に言ってくれなかったら、もう既に私は死んでいたわ。ありがとう」

「死んでも、死に切れないわよ……そう。見て。貴女の恋人も、あの船に乗っているみたいね。ディアーヌ」

 ラウィーニアが意味ありげに、海面を指差したから私は慌てて柵に手を掛け目を疑った。

 船と船の間の海面が、信じられない勢いで凍り始めていたから。

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