【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「殿下は……カール様は、クララ様のことを大事に思っていらっしゃるようなのです」

「…………え?」


 いつも感情を見せないイゾーレには信じがたいほどの、苦し気な声。見ればその瞳はゆらゆらと揺れ動き、身体が小刻みに震えている。


「あんなに楽しそうに誰かの話をする殿下を、私は知りません。クララ様が羨ましいと、そう思いました。殿下のお求めになる妃は、あなたのような方なのだと」


 心の奥底から絞り出すかのようなイゾーレの声が、クララの胸を打つ。

 違う。そんなことはない、と口を吐いて出そうになる。

 けれど、本人に話を聞いたわけではない以上、クララは何も言えない。事情を知らない人間が余計なことを言えば、イゾーレを必要以上に傷つけることになるからだ。


(だけど)


 もしもクララがジェシカ――――コーエンの想い人と対面する日が来るとしたら、クララはイゾーレのように冷静さを保っていられるだろうか。

 己とジェシカを比べ、不満を嫌味に混ぜて、最後には我を忘れて嫉妬心をぶつけてしまうのではないか。みっともなく泣き叫び、醜態を晒すのではないか。そんなことを考える。


「わたしはね、カール殿下の妃になれるのはイゾーレ、あなたしかいないと思う」


 真っ直ぐにイゾーレの瞳を見つめながら、クララは言う。

 凛としていて美しい、クララにはない強さを持ったお姫様。そんな彼女が、クララには眩しくてたまらない。


「だって、イゾーレ以上にカール殿下を想っている人なんていない。そうでしょう?」


 そっとイゾーレの手を握りながら、クララは微笑みかける。

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