【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 クララが財部に行ったのは、ここ数年間の貴族たちの懐事情を確認するためだった。

 この国の貴族は年に一度、己の収入と資産の状況を報告する義務がある。そして貴族たちから上がって来た報告書を管理すること。それが財部の役割の一つである。

 クララの目的は、シリウス――――マッケンジー家とその分家筋の報告書を財部から借りることだった。

 とはいえ、調査対象がマッケンジー家だとバレれば、シリウスの謹慎処分とその理由を勘繰られかねない。このためクララは、全貴族の報告書を借りようとしたのだが。


『ダメです。資料をお貸しすることはできません』


 クララを待っていたのは、取り付く島もない拒絶の言葉だった。

 無機質な冷たい声音。イゾーレのおかげである程度免疫があるつもりだったが、心は簡単に抉られてしまう。めげそうになりながらも、クララは己を鼓舞するために拳を握りしめた。


『けれど、ご覧ください。ここにフリード殿下からの申請書があって――――』

『貴族の収入資産状況については、たとえ王子であっても閲覧を許可することができません。報告書を検められるのは国王陛下と財部の人間のみです』


 閲覧制限については、クララだって事前に把握していた。今からずっと昔、とある貴族が、己の懐事情を周りに知られたくないがために作った規定らしい。それが、一定以上の貴族に支持され続け、今日に至るまで残っているのだ。

 財部の人間は頭が固い。規定がある以上、申請したところで十中八九退けられる。そうと分かっていて、コーエン達はクララを送り込むことにしたのだ。


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